【ニュース解説】アクリフーズは何を間違ったのか 第2回

【ニュース解説】アクリフーズは何を間違ったのか 第2回

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「マルハニチロHLD アクリフーズ農薬混入事件に学ぶ」
        食品関係 品質保証部の担当者の解説 第2回
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 リスコミフォーラムニュース解説の第5回目をお届けします。
 今回は2014年2月6日に開催したリスコミ勉強会「アクリフーズは何を間違ったのか」の議論をまとめました。
 意図的な混入の場合、ほとんど対策のしようがないこと。完全に防ぐのはほとんど無理だと思ったのが勉強会の参加者一同でした。
一方、一部メディアではアクリフーズ群馬工場で ボディーチェックをしていなかった点が話題となっています。これは本質的な議論になっていない、というのが多くの参加者の感想です。
 このような事件が起きないためには「どう防ぐのか」「どう対応するのか」ということがキーポイントになります。そのことを専門家としての視点から解説していく、今回はその2回目で後半の話です。

■前半の話はこちらからご一読ください。

【検出基準とARfDの周知度】
 毎日新聞の小島氏の記事(「くらしナビ・ライフスタイル:冷凍食品への農薬混入事件 誤解与えた毒性の発表」(1月30日付)によれば、マルハニチロの担当者はARfD(急性参照用量)の考え方を知らなかったとしているが、多分、経験のある人しかARfDは使わない。中国の毒ギョーザ事件の時には、ARfDを使った方がいいという意見が一部にあったが、ARfDの考え方は品質保証の分野でのそれほど広く知られていたわけではない。

【ポジティブリストとの関係】
 ADI、ARfDと関係のあるところで残留農薬のポジティブリスト制度について少し話したい。ちょっと話は長くなるが、経緯を話す。
 ポジティブリスト制度は2006年に日本に導入された制度だが、それ以前は、農産物、農薬、動物用医薬品はそれぞれ別に基準があった。実に、農薬に関しては、肉に関して基準がなく、動物用医薬品に関しては、野菜やそのほかに関して基準がなかった。海外ではもっと使われているものがあるのに、分類もこのままでは足りない。だから283物質にしか基準がなかったものを、枠を広げて799物質に増やしたということ。これ以前には、ここの基準値を超えなければ、販売することができた。「これ以上の農薬が入っていなければよい」というネガティブな言い方だった。
 しかしポジティブリスト制度の導入によって、すべてに枠を作って一律で0.01より少なくしなくてはならないとした。ただ、そうは言いながらも、従来の基準があるので、それを当てはめる。「それでは十分ではない」と言う人がいるので、海外で使われている基準を持ってきた。これがポジティブリスト制度だ。
 ポジティブリスト制度ではADIが中心になっている。これは残留農薬なので、毎日同じものを食べた時に体に影響があるかどうかの話。非常に薄い量の話。この当時、ARfDは急性毒性の話にしか出ていない。

【ARfDはやはり認知度「低」】
 ARfDがどれだけ知られていたかについて、少し繰り返しになるがさらに話したい。
 マラソン乳液のMSDS(=製品安全データシート)を今日は持ってきた。食品工場は持っているし、街のパン屋さんでも、あるところにはある。工場で使われている化学物質が、もし間違った使われ方がされた時、どういう危険性があるのか、食品工場はすべてリストを持っている。MSDSにも、LD50しか載ってない。つまり、ここにもARfDという考え方はない。
 まとめると、ARfDは、知っている人は知っているけれども、知らない人の方が多いのではないか。食品会社の品質保証部レベルでもそうだと思う。全く知らないわけではないが、ふつう「ADIを超えたらダメだ」と考えるから。その次に考えるのがLD50。その間を飛ばしてしまっているのが現状。
 厚労省が指摘したのはここ。記者会見時に「60個くらい食べても大丈夫」と言ったのが気に入らなかったのだろう。本当は8個くらいになっていた。
 ともかく、ARfDを使わなかったことで、マルハは二度目の記者会見をしなければならなくなった。先にも指摘したが、公表前に流通で回収を実施していたのだけれども(前半部参照)。これについては批判があったが、ごく一般的な話。批判していた人が流通の常識を知らなかっただけだと考えた方がいいだろう。

【PB商品の告知が分かりにくい】
 社告が分かりづらかったのは事実。
 最初の社告では「アクリフーズ群馬工場の商品すべてといくつかのPB」という言い方をしていた。だが、一般が目にする肝心の社告のなかではPBの商品をすべて公開していなかった。一方、社告には書かれていなかったが、プレスリリースには書かれていたので、ほとんどの記事ではPBの商品の名前が報じられていた。だが、そうしたことが分かりにくかったということで、後にすべての商品の写真入りの社告を全国紙の全面広告に出した。
 アクリフーズの場合、工場は夕張と群馬の2箇所しかない。会社の方針として表示として製造工場まで書いていた。群馬工場に関しては、登記簿上の本社はここなので、本社工場しかない会社が会社住所を書いているのと同じだ。群馬工場の所在地は本社と同じ。
 二つの工場間が遠く、包装資材のやり取りもしない。またかぶっている商品も少ない。実際、両方の工場で作っている商品は、社告に掲載された商品のなかの4品目のみ。それ以外は群馬工場でしか作っていなかった。

【回収量 640万パックは少ない】
 メーカーが回収をする時には、期間中に製造した数全部を発表する。一方、アクリは回収対象が640万パックという数字を発表した。この数字、の「640万パック」という数字の意味を、なかなか記者は理解できないだろう。
 「640万パック」というと、「すごくたくさん」というのは確かにそうなのだが、流通業界の感覚では違う。 冷凍食品は1パック200~250円で売られているので、工場出荷額は100~150円くらい。すると640万パックというのは、金額にすると7~8億円くらいにしかならない。 ところがアクリフーズは年間400億円の売り上げがある。つまり、外部の工場で作っているものが半分あるとすると、自前の工場が2箇所あるので、1工場あたり100億円くらいの商品を生産しているはず。
 「100億円の商品を作っている工場が全商品を回収する」と言った時に、なぜ10億円にも満たない数しか回収しないのかと疑問に思うのが流通業界の感覚。だから、「640万パック」は「多い」のではなく「少ない」と感じるべきである。

【回収量は推測値】
 アクリフーズになぜか訊くと、実は「640万パック」というのは現在市中に流通しているだろうと彼らが推測した数字だった。そんな数字をなぜ発表したのかと思う。下手をすると120%回収する可能性もあるし、60%しか回収できないかもしれない。後々何か批判されるもとになるかもしれないのに、だ。
 製造した数全部を発表した方が間違いはない。だからこんなケースは初めて経験した。今も「60%しか回収できない」「70%しか回収できない」といった声が出ているが、なかなか判断が難しい。ただ、アクリフーズの場合、市販の冷凍食品を製造しているので、消費のペースも読める。いろいろな商品があると難しくなるのが現状だ。
 例えば、牛乳とヨーグルトがあると、同じペースでなくなっていかないので、それを数値化するのは難しい。市販の冷凍食品に限定すれば、「640万パック」という数字は実際の数字に近いものだったのだろう。実際に回収している数字が85とかになっているので、適切な数字で発表できていたとは思う。「640万パック」という数字が何なのか、記者会見で発表した時には詳しく言っていないし、これが「推測値」だとはどこにも書かれていない。

【まだ販売していた】
 先月下旬、長野県にある流通が回収対象の商品を店頭で売っていたと自主発表していた。消費者が商品を保健所に持ち込んで、「店頭に回収対象の商品が並んでいる」と訴えたようだ。店舗にも連絡が入り、ほかの店舗でも売っていたため保健所に申告したら、けっこう大きな扱いになったという。レギュラーチェーンでは、お客さんが回収対象の商品をレジに持って来ても、「もうこれは売れません」とレジで止める。小さなスーパーだとなかなかその機能がないところもあるのが現状だ。
 このケースは本部を通さずにお店にメディアが直接取材に行ったのだと思うが、「メーカー・問屋さんから回収の連絡がなかったので、お店では気が付かなかった」というコメントがあった。本部に訊いたら、こんなことはコメントとして言わないだろうが。。。
 また、PBの中に西友とかあったが、ある流通ではアクリフーズで当時PBを作っていなかったため、たまたま名前が出なかった。冷凍食品で100億円を作っている工場は規模として大きいから多くの流通の店頭に並んでいる通常商品だ。

【なぜPB商品に名前がないのか】
 PB商品に製造者の記載がない問題は、報道が一番分かっていないところだ。
 具体例をあげると、例えば、販売者イオン株式会社A639の場合、製造者の記載はない。カネハツ食品株式会社は、ローソンセレクトの商品を製造しているが、「製造者カネハツ食品株式会社D」というのはカネハツのなかの直営の工場で製造していることを示す。だが、これを見ただけでは、どこの工場で製造しているかは分からない。記載されているのは本社の住所。次は生協。販売者が日本生活協同組合連合会と記載してあり、その下に「製造者フレッシュ食品株式会社成田工場」と記載してある。
 生協の場合、昔から製造者の名前がそのまま明記されている。工場名まですべて入っている。一部の商品には固有記号が入っているけれども、ほとんどの商品はメーカーの工場名まで明記されている。私たちから見れば、苦情が工場に直接行ってしまうので、工場の人が困るだろうと思う。本社住所を書くといった発想は今までなかったとのこと。ずっと製造者の名前を書いていた。今日持ってきたその次のサンプルは製造者がヤマザキだ。さらにこれはセブンプレミアム。これも製造所固有記号が賞味期限の脇に記載されている。ヤマザキの直営工場だが、どこの工場であるかは固有記号をたどらないと分からない。
 その次は写真だがスタイルワン(ユニーのPB)だが、販売者が日本水産株式会社となっている。日本水産がどこか外部の会社に委託している商品。委託先の法人も日本水産ではない。イオンの場合と同じ表記の仕方。ただ、母体が流通業か食品会社かの違い。食品会社が販売者表示をすると、「これは製造者だ」と勘違いする人が多い。PB商品の記載ルールはこういうもの。企業名と番号がセットになって一つの工場を表す。
 

【メディアの報道への違和感】
 一連の報道の中で違和感を感じたのは『週刊ダイヤモンド』の記事だ。製造所固有記号が義務化されるのではないかという趣旨の記事だったが、使っている写真はトップバリュの緑茶とセブンプレミアムの緑茶。
 トップバリュの緑茶は、原産国名が中国、輸入者が日本茶販売株式会社。輸入品なのだから製造工場が書いてあるわけがない。一方、セブンプレミアムの緑茶は、販売者が伊藤園フードサービス。伊藤園はお茶の葉は自社工場で扱うが、飲料はすべて外部に委託している。これも製造者が書かれていない。にもかかわらず、記事中には「セブンプレミアムには製造者が書かれてあり、トップバリュには書かれていない」とある。記者は分かっていないのではないかと思う。

【ヨーロッパとの違い】
 ヨーロッパの場合、日本と違って、昔の缶詰と同じで、工場は製造所固有記号一つ。どのユーザーに商品を出そうが、製造所固有記号は一つだ。 ヨーロッパの場合、工場一つ一つに固有記号が振り分けられているからだ。この固有記号は書いてもいいし書かなくてもいい。販売者が全責任を負うという前提になっている。ヨーロッパの製品では10年くらい前はけっこう製造所固有記号が書いてあった。製造所固有記号のリストを片手に、「この商品は良いからこの工場に委託できそうだ」という話ができたのだが、最近は書いていないことの方が多い。おそらくそれだけ表示者が自己責任で消費者に対応できるようになってきているのと、もともとヨーロッパの小売業は日本と比べて大きいからだろう。大きいメーカーもないことはないが、どちらかというとメーカーの信用力よりも小売の信用力の方が高い。国を超えて事業をしているメーカーはあるのだが、そうでないメーカーの方が圧倒的に多い。メーカーが製造した後は流通の責任だという考え方がある。ヨーロッパならば、本当は県内でしか商売する力がないメーカーなのに、日本全国で売るのはメーカーの責任ではなく流通の責任だと考える。

【フードディフェンス】
 これから問題となるのはフードディフェンスをどうするかだ。これまでは工場への侵入対策が中心だった。内部対策に関しては、監視カメラの抑止力で大丈夫と思われていた。だがそれだけでは足りないのか。この事件が起きてから委託先の工場に訊いてみたところ、監視カメラの録画映像は商品の賞味期限まですべて残っているわけではないという工場がほとんどだった。賞味期限が1年間の商品を作っていたとしても、監視カメラのデータはだいたい2カ月で上書きされる。データを取り出して、賞味期限まで保存しているという工場はほぼ皆無だ。データを上書きする前に、異常が起こっていなかったかチェックをするということもしていない。何か起きた際に見ようと思ってデータを持っているだけなのが現状だ。
 今、監視カメラのデータ容量を見直すかという話が出ている。ただ、監視カメラが一番効果的かというとそうでもない。現場で働いている人はどこらへんが映っていないか一番よく分かっている。監視カメラには死角がある。
 派遣社員の問題を取り上げていた記事もいくつかあった。だが、国内の工場では派遣社員がいないとやっていけないのはどこでも同じ状況。そうすると、コミュニケーションをとることしかないのか。国内の工場ではなかなか落とし所が見つからない。

【最後に】
 いくつか課題はあるが、最大の焦点は「どうやったらこうしたことを防ぐことができるのか」ということ。従業員が故意にやったらどうしようもない。やりたいと思わせないようにすることしかできない。それが多くの人が思っていることだと考えている。(終わり)

2014-05-12T16:32:00+00:00 2014.05.12|Categories: What's New|