リスクセミナー 講演「リスク評価って何のため?」 東京大学名誉教授 安井 至先生


 

 
西澤 先生のお話の中で、リスクというものがなかなか理解されにくいとのお話がありました。リスク評価は何のために行われ、どのような過程を経ているのか。我々のようなリスクコミュニケーションをする者がきちんと把握しないといけないですね。
さて、先生のお話の中でリスクの過小評価・過大評価の話がありましたが、実際にリスク評価の現場では過大評価をしているのでしょうか。
    安井 とにかく実害を出せませんから、例えば化学業界ではかなり安全サイドに立っています。

    西澤 お話の中で、一つのリスクを避けることで別のリスクを負うという、リスクのトレードオフの話が興味深かったです。
消費者が食べ物を選ぶとき、トレードオフがどう関わってきますか?魚に入っている重金属が妊婦に良くない、という話があります。しかし、過剰摂取が問題であって、やはり魚のEPAなどの栄養素の有効性はリスクを上回っているということが実証されています。


    安井 魚を食べない人は肉を食べる。しかし、肉は大腸菌の原因になる。魚はメチル水銀が一番のファクターかと思うけど、ほかの有効成分を考えるとプラスのほうが大きい、というのが根拠でしょう。

    西澤 消費者が実際に買い物をする時に、どう選択したらいいのか、分かりにくいですね。 こういったことをどうやったら消費者に伝えられるのでしょうか。

    安井 ありとあらゆるものが、リスクのトレードオフと考える。魚を食べないと肉を食べるよね、と考えるのが鍵でしょうね。

    西澤 国立がん研究センターによると、野菜不足と受動喫煙のリスクが同じくらいだそうです。でも、こうやって違うリスクを比べるという感覚がなじみにくいですが。

    安井 いずれも「エンドポイント」はがんです。エンドポイントが同じものは比べられるんですよ。ある学者が青酸カリのリスクと放射線のリスクを比べましたが、エンドポイントが違うから比べられないんです。

    西澤 それと、ALARA(As low as reasonably achievable:無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき) のところで、「合理的」という言葉が出ます。
この表現は冷たい感じがしますから、日本語に馴染まないんではないでしょうか?


    安井

これが意味するのは、無理をしなくてもできること、ということです。
【関連リンク】ALALAについては用語解説へ

    西澤 リーズナブリー(reasonably)とは一体どれくらいなんでしょうか?主観の問題ですね。「無理しない程度に」とはどの程度か。こういったことを議論し、すり合わせ、社会で共有していなかったのが、震災以降のリスクの話でも大きく影響していると感じます。

    安井 日本にもリスク学会がありますが、実際にリスク研究に関わっている人ははほんのわずかです。
リスクは日本人にとって一番苦手なコンセプトでしょう。みんなで我慢するのは得意ですが、リスクというのは欧米式のやり方です。西澤さんのやっているリスクコミュニケーターというのはですから、非常に難しいチャレンジですね。

    西澤 企業、行政がみんながある程度リスクコミュニケーターにならないとならないのですが、時間がかかりますね。 (終わり)




対談の動画はこちらからご覧いただけます。(約10分)

  対談 西澤真理子×安井至

 

 

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