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Litera Japan メールマガジン第136号 (2019年8月31日配信)
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○日本学術会議主催 「食の安全」公開シンポジウム 10月
○みんなで作り、守るものー 西沢立衛『美術館をめぐる対話』より
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残暑お見舞い申し上げます。
西澤真理子です。
東京よりお届けします。
まずは10月の公開セミナーのお知らせです。
■■■■【募集中】■■■
https://www.scj-vetfood.com/blank-5
食の安全と社会:科学と社会の対話
食の安全は、消費者の関心が最も高いものの一つですが、消費者と科学者の
意識調査を行うと乖離が大きいものの一つでもあります。
シンポジウム(ワークショップ)では、ゲノム編集食品を含む3つの
具体的事例を取り上げながら、どのように消費者、科学者、
広く社会との対話型のコミュニケーションをはかるのかを考えてみたいと思います。
(参加費無料)
とりわけパネルディスカッションにご注目ください!
日本生協連の鬼武氏、ファンケル総研の寺本氏、
NHKラジオ 子供科学相談室のレギュラーで、三浦しをんさん『愛なき世界』
のモデルとされる東大の塚谷氏、各紙書評で取り上げられている
『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)
著者 読売新聞科学部の三井誠氏が加わり、徹底的に科学と社会のかい離を議論します!
西澤はモデレーターとして参加です。
https://www.scj-vetfood.com/blank-5
どなたでも参加可能です。
さて、今日の一文です。
皆さんは夏休みはどこかに旅されましたか?
「豊島美術館はたぶん世界10本に入ると思う。一番好きな美術館」
建築家の友人の一言に押され、瀬戸内海に浮かぶ豊島に行ってきました。
大人気で入場制限があり、外国人も半分くらい待っていました。
そしてついに入場。
この美術館のありかたはなんだろう?!
そう感じる時間を過ごしました。
いびきをかいて居眠りする人あり、たいそう、不思議な空間です。
その設計は西沢立衛さん。
西沢さんは2010年に建築のノーベル賞と言われる
プリツカー賞をSANAA(妹島和代氏とのユニット)で受賞され、金沢21世紀美術館などの建築に携わっている
現代を代表する建築家のひとりです。
その哲学は何だろう?ミュージアムショップにある著書を手に取りました。
西沢氏の文章には、建築の根幹にある哲学、公共物はみんなで守るもの ー 皆が参加する「公共の場の議論」の意味、につながる多くの指摘があります。
西沢立衛(りゅうえ)『美術館をめぐる対話』からの読書メモをお送りします。
ご一読ください。
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今日の一文○○
西沢立衛『美術館をめぐる対話』(光文社新書 2010年)より
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- アートが地域を変える
p.19 「日本の美術館の多くは、いわゆる箱もの行政の典型だと言われてきましたが、
本当は公共の美術館というものは、行政だけがやることではなくて、
官民問わずにいろんな人間が参加して、
能動的にに作っていくものだと思います。
美術館は、行政の占有物ではなくて、町の財産です。
自分の町の一部であって、毎日自分たちが使っている電車とか、道路とか公園とか、そういうものと同等のものです。(中略)環境によって建築のあり方が決まりますが、同時に建築が環境を変えていく。場合によってはアートをも変えていくでしょう。また逆に、アートが建築を変え、公共空間を変えていく、ということも起きるだろうと思います。これからアートが、自分たちの生活により近いものになっていくと、美術館はいっそう町の一部のようなものになっていくと思います。」
- 東京のコンビニ化
p.41
「現代の東京はなにか、コンビニみたいな気がします。ぜんぶ、今の僕らの気持ちや利便性だけでできている感じがする。歴史的建物や河川を、今の時代の事情だけで壊したり埋め立てたりするじゃないですか。でも、今の価値観だけで都市を作るというのは正直言って、無理があるのです。(中略)つまり人がわっと集まって、町をつくって、それで翌日には町も人も一緒に消えていく。東京という都市は本当にあれをやってしまった感じがするんです。」
- リアルな出会いの価値
p.190
「インターネットの時代とはいえ、会って話をして、空間を見るというのは重要だなと、あらためて思いました。むしろ、インターネットの時代だからこそ、よりリアルな出会いが重要に感じられるのかもしれません。」
- 美術館の公共空間
p.205
(妹島氏)「アートや美術館には、さまざまな人をつなぐ公共空間のきっかけとなる機能があるので、さらにもっといろいろな町で、美術館が多様な形で考えられるといいなと思いますね」
(西沢氏)「時代が変わっていくと、人間の考え方や社会のありかたも変わっていくから、それにあわせて美術館のありかたも変わっていくと思うんです。これから、美術館の公共空間としての側面は、さらに重要なものになっていくと思いますね。」
- パブリック=自分たちのもの
p.208「アメリカにいて感心したのは、アメリカ人は、パブリックという概念を、自分のものというか、自分が使えるものだという風に理解しているところです。(中略)ある年配の女性が僕に向かって、『私たちは子供に、パブリックというものはあなたのものだと教える。この美術館はあなたのものなの、だから大切にしなくちゃだめよって』と言ったんです。それを聞いて、日本とはずいぶん違うなと。」
p.210(西沢)「日本では公共というとやっぱり、『お上がやること』的な意識が今もあると思う。公共イコール行政というか。江戸時代の250年が、いかに豊かだったかと思います。区立公園も道路も橋も公共物はみんな、官が手配してやることだという理解です。
あれは、江戸時代の豊かな生活の思い出が、いまだに続いているんだと思います。」
(妹島)「でも最近は、行政だけではなくて、例えばNPOとか、民間側からの働きかけもいろいろ始めっていますよね。そういう動きは少しづつでも何かを変えられると思います」
(西沢)「そうですね。公共とか集団と言うのは、考えてみれば、
帰属するひとりひとりの主体性や個性、独創性が重要だと思うんですよね。
集まることのメリットを考えると、
似たような人が集まるより、個々が違う力を持った人々が集まるほうがいい。集合するということは、個々に個性や主催性があることが前提になっていると思うのです。集団をつくるということは、同時おのおのが個人でないとならない、ということです。そういう意味でも、公共性といっても、自分や知らないというものではなくて、参加するひとりひとりが頑張る場だというのが本来だと思います。
(中略)アートや建築が、参加する人々に、自分も何かやってみようというような活力を自然な形で喚起させるものであればいいと思うんです」(以上)
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