【ニュース解説】ボツリヌス菌で意識不明に

【ニュース解説】ボツリヌス菌で意識不明に

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リスコミフォーラムは、メーカー、流通、メディア、消費者関係者、研究者の有志が集まった自主的な勉強会の活動で、2007年に発足しました。隔月に勉強会を開催していますが、その中で話題になったものを解説することになりました。
メディア情報では読めない様々な事情、その背景、何が問題点か、フォーラムのメンバーが詳しく説明していきます。

第3回目の今回は「あずきばっとうからボツリヌス菌」を取り上げます。

厚生労働省が今年3月、真空包装・加熱殺菌された岩手郷土料理「あずきばっとう」を
食べた60歳代の夫婦が食中毒を起こしたと発表して、各紙でニュースになりました。

読売新聞:「宮古の会社の食品で鳥取の夫婦が食中毒」(2012年3月27日朝刊全国版)
朝日新聞:「ボツリヌス菌、夫婦が食中毒 岩手「あずきばっとう」」(2012年3月27日朝刊全国版)
毎日新聞:「食中毒:ボツリヌス菌で夫婦が意識不明――鳥取・米子」(2012年3月27日夕刊東京版)

~以下、記事から抜粋~
鳥取県は26日、同県米子市の60代夫婦が体のしびれなどを訴えて24日に搬送され、
ボツリヌス菌が原因の食中毒と分かったと発表した。夫婦は意識不明の状態が続いている。米子保健所によると、岩手県の郷土料理「あずきばっとう」の真空パック商品から菌が検出。ぜんざいの餅の代わりに平打ちのうどんが入った食品で、通常の流通先は岩手県周辺だけという。~抜粋終わり~
【毎日新聞:「食中毒:ボツリヌス菌で夫婦が意識不明――鳥取・米子」(2012年3月27日夕刊東京版)より】

(注)あずきばっとう=岩手県宮古地方の郷土料理。おしるこの中に「はっとう」(巾広うどん)を入れたもの。(参考:岩手県生めん協同組合ウェブページhttp://i-namamen.com/)

さて、「食中毒」といえば、食品メーカー側の過失と考えられがちです。今回の事故が正確にどのような経緯で起こったかは分かりませんが、私たちの「食べ方」ひとつで今回のような事故は起こりえます。「レトルト食品は無菌」「冷蔵庫では菌が繁殖しない」といった誤解がその根底にあるようです。加工食品のなかで菌が実際にどのような状態になっているのか解説してみます。

【解説】
加工食品のなかで増える菌は主に細菌、酵母、カビです。それぞれの菌が水分・熱・酸素などをどれだけ必要とするかで管理の仕方を変えています。これは一般には知られておらず、意外に思われるかもしれませんが、食品のなかには菌がたくさんいます。例えば、刺身では1g当たり1万個以上いるのは珍しくありません。刺身一切れが10g前後だとすると、きわめて多くの菌を私たちは日常で食べていることになります。

食品メーカーは菌を減らすために、酸素の有無、温度、栄養素、pH、水分活性、発育阻害成分などを管理しています。例えば、好気性の菌は無酸素状態にすると減りますし、低温帯を好む菌は加熱殺菌すると死滅します。梅干しやジャムのように、食塩や砂糖を加えて、菌が使うことのできる水分を減らすことで菌を減らす方法もあります。

普段目にする「レトルト食品」は、120度以上の高温高圧で殺菌したものです。煮沸程度の加熱では死滅しないボツリヌス菌を死滅させる殺菌条件となっています。しかし、この条件でも完全に無菌になるとは限りません。ボツリヌス菌より更に耐熱性が強い菌が残っていることがあります。このような場合、そのレトルト食品をもう一度温めて60℃前後で放置すると、残った菌が増えて、中身が変敗する可能性があります。

ここで、菌を増やしてしまう食品の取り扱いを列挙してみます。

1. 冷蔵庫から出し入れを繰り返す
冷蔵庫に入れると全ての菌が死滅したり活動しなくなったりするわけではありません。通常の食品には、中温帯を好む菌が多数、高温帯と低温帯を好む菌が少しずついます。常温で食品を放置すると、この中温を好む菌が急激に増えて食品を腐らせます。しかし冷蔵庫に食品を入れると、中温帯の菌の活動が鈍くなり、その代わり低温帯の菌が増えます。低温帯の菌は増殖のスピードが遅いため、結果的に冷蔵庫に入れると食品は長持ちしますが、いずれは低温菌により腐ってしまいます。冷蔵庫から食品の出し入れを繰り返したり、頻繁に開閉を行うと、食品が十分に冷やされない状態になり、本来活動が鈍くなる中温帯の菌が増殖してしまい、食品が腐るスピードが速まります。

(注)高温帯=セ氏50~60度。中温帯=25~40度。低温帯=5~20度

2. 冷凍庫を頻繁に開閉する
冷凍食品は、食品中の水を凍らせて菌が水を使えない状態にすることで、菌の増殖を抑えています。冷凍したことで菌が死んでいるわけではありません。冷凍状態を保っていれば菌が増えることはありません。しかし、一度解凍したものを再度冷凍する場合、解凍されていた時間と再び冷凍状態になるまでに菌は増えます。家庭では夏に冷凍庫を開閉する回数が多くなり、冷凍庫のなかでも低温状態を保てない場合があります。そのような場合、表面付近は解凍状態になっていることが多く、菌が増殖する可能性があるだけでなく、再凍結を繰り返すことで品質の著しい劣化を招くこともあります。

3. 乾燥食品を開封したままにする
乾燥食品の場合も、菌が水を使えない状態にして、増殖を抑えています。密封を保った状態にしていれば、長期間保存できます。逆に、水戻しした後はすぐに微生物の活動が始まります。また、湿気の多い状態で開封したままにしておくと、乾燥食品中に水分が取り込まれ、やはり微生物が活動を再開し、腐ることになります。最近は水分の多いふりかけも市販されていますが、開封後は冷蔵庫に入れないと短時間で腐敗する可能性があります。

4. 塩分控えめの梅干しをつくる
減塩ブームで、塩分控えめの梅干しをつくる家庭があります。梅干しは大量の食塩が水と結合し、菌が使える水分を減らすことで腐敗を抑えています。逆にいえば、食塩しか菌を抑えるものがないので、食塩が十分でないと容易に菌が増殖します。ですから、家庭で塩分控えめの梅干しを作るのは、本来は危険なのです。低塩の漬物はプロの食品メーカーでも失敗して出荷できないことがあるそうです。糖分控えめのジャムも同じことがいえます。

5.冷蔵保管すべき食品を温めた後放置する。
冷蔵保管が必要な食品は高温菌が残っている食品です。これらの食品を温めた場合、すぐに食べないと危険な状態になることがあります。鍋などで加熱をすることは低温菌にとっては「殺菌」ですが、高温菌にとっては殺菌ではなく、むしろ増殖のための引き金を引くことになる場合があるからです。加熱により眠っていた高温菌のタネ(芽胞)が目をさまし、すでに中温菌や低温菌がいないため活動が自由な状態で高温菌が急激に増殖することがあるのです。あずきばっとうの事故も、おそらくこれと同様の過程を経ているのではないかと思われます。

6. カレーやシチューを加熱したあとにかき混ぜずに放置する
カレーやシチューなどの具に使う根菜類や調味に使う香辛料は高温菌が多く付着している食品です。しかしカレー程度の煮込み料理では、高温菌を死滅させることはできません。つまり、高温菌は残っています。特に大きな鍋で作る場合、加熱後の鍋の底は真空状態が維持されるため、酸素を嫌う嫌気性の高温菌が増殖しやすくなります。これらの菌には毒素を産生して食中毒を起こすものが少なくありません。そのため、加熱した後には必ず衛生的なお玉やしゃもじなどでかき混ぜて、鍋の底のほうにも酸素を送り込むことで、嫌気性の菌を増やさない工夫が必要です。

7. 飲みかけのペットボトルを常温で放置する
ペットボトル飲料も開封後には空気などから菌が侵入します。従って開封したものは常温で放置せず冷蔵保管しできるだけ早く飲んでしまいましょう。また、口をつけて飲んだものは口内の菌が大量に侵入しているため、冷蔵庫に入れておいても、比較的早く菌が増殖してしまいます。

このように、それぞれの食品が「どのように菌を抑えているか」「どうすると菌が増えてしまうか」を考えながら、食品を扱う必要があるのです。生活者も知っておきたい話です。

引き続きこういった日本の様々な「リスク」事情について深読み解説していきます。
どうぞ「リスコミフォーラム解説」をご購読、ご活用ください。

2012-07-09T12:43:01+00:00 2012.07.09|Categories: What's New|