【ニュース解説】アクリフーズは何を間違ったのか 第1回

【ニュース解説】アクリフーズは何を間違ったのか 第1回

すっかりご無沙汰してしまいましたが、リスコミフォーラムニュース解説の第4回目をお届けします。
今回は2014年2月6日に開催したリスコミ勉強会「アクリフーズは何を間違ったのか」の議論をまとめたものです。http://literajapan.com/20140207

意図的な混入の場合、ほとんど対策のしようがないこと。完全に防ぐのはほとんど無理だと思ったのが勉強会の参加者一同でした。
一方、一部メディアではアクリフーズ群馬工場で ボディーチェックをしていなかった点が話題となっています。これは本質的な議論になっていない、というのが多くの参加者の感想です。

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「マルハニチロHLD アクリフーズ農薬混入事件に学ぶ」
        食品会社品質保証部の担当者の解説
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基本的には「どう防ぐのか」「どう対応するのか」ということがキーポイントになる。 今回はそのことを専門家としての視点から解説していく。

【背景:会社概要】 
 アクリフーズはもともと雪印乳業の冷凍食品の製造部門として発足し、その後に独立したもの。2000年の食中毒事件の後に別会社として分離した。雪印ブランドではなく、「アクリ」という新しいブランドを立ち上げた。2002年に社名を「アクリフーズ」に変えた。その1年後に、ニチロに買収された(この当時はまだニチロとマルハは合併していなかった)。ニチロの冷凍食品部門とアクリフーズは合併せずに、「アクリ」のブランドを残した。

 ニチロは当時「あけぼの」というブランドで製造していたので、「アクリ」は別ブランドとしてそのまま継続した。ニチロとマルハが合併する直前、ホクレイを吸収した。それが現在のアクリフーズの夕張工場。もともとホクレイは1工場しか持たない会社だった。今年4月にマルハニチロホールディングスとマルハニチロ食品、マルハニチロ畜産、マルハニチロマネジメントの4社が、マルハニチロ水産と合併して、存続会社がマルハニチロ水産、「マルハニチロ株式会社」という会社になる。

 このことは昨春にすでに発表されていたことで、今回の事故が起きたから合併するわけではない。アクリフーズは資本金が3億100万円で、マルハニチロ食品の100%子会社。マルハニチロホールディングスの直接の子会社ではなく、一つ間を置いて100%子会社になっている。年間売上は394億円。工場が2カ所だけのわりに大きい。

【事件の時系列】
 2013年11月13日、消費者から会社に申し入れがあった。さらに11月15日~12月3日の間に、計9件の申し入れが続いた。
しかし会社では当初、工場のペンキを塗り直した際に臭いが移ったのではないかと考えられた。複数の証言があり、複数のエリアから起きているため。特に外部に検査を依頼せず、内部で原因を特定しようとしていた。12月4日になってはじめて外部に検査を依頼した。マルハニチロは、残留農薬の検査はすべて自前でできる。臭気検査は自前でできなかったため、外部に依頼した。外部に検査を依頼すると、だいたい2週間かかるのが常だからだ。
 12月13日、酢酸エチル、エチルベンゼン、キシレン、ほか3物質が検出されたという結果が上がってきた。定性の検査なので、どれくらいの量が出ているのか分からない。そこで翌週の月曜日に定量検査を再度依頼した。その翌日の火曜日には残留農薬についても外部に検査を依頼した。結果的には12月25日にエチルベンゼン6 ppm、キシレン3 ppm検出された。27日、マラチオンという残留農薬が2200 ppm検出されたのだった。そこで、消費者からクレームがあった11品の追加検査を出す。
 12月28日、そのうちの4検体からマラチオンが検出された。そのため、29日朝に回収を決めた。
 流通には29日の朝一番に連絡が入り、店頭撤去の依頼が来ていた。問屋にも在庫を流さないように連絡が入り、29日夕方になって記者会見をした。
 以上、記者会見までの時系列での説明である。

【記者会見への批判について】 
 記者会見を後回しにしたのは、おそらく情報が錯綜する前に現品を止めることを優先したためだ。また、夕刊に間に合わないタイミングだったからだろう。流通の側からすれば、発表の前に食品流通を止める連絡を入れるのは当たり前。消費者にこれ以上新たに手渡さないことを優先する。この対応について、新聞は批判していなかったが、一部のテレビ局は批判していた。
 おそらく新聞は夕刊まで待たなければいけないけれども、テレビはすぐに情報を流せるからだ。テレビ局からすれば、「なぜ早く情報を流させてくれなかったのか」と不満だったのだろう。時間感覚が異なるため、テレビ局のみから批判が出たのだろう。

【会見の内容の問題:危険性の判断ミス】
 問題は12月29日の発表内容だ。LD50を引き合いに出して、子供が60個くらい食べても大丈夫だ、と発表した。その後、厚生労働省からARfDを使えと言われた。そこで30日深夜に2回目の記者会見を開いて、最初の記者会見の内容、つまり危険性の表現を間違ったと訂正したことである。子供がコロッケを8分の1個食べると健康に影響する恐れがある、と説明を訂正した。

【社告の分かりにくさ】
 もう一つの問題は30日に出した社告だ。これは「アクリフーズ群馬工場」と書いてある商品をすべて回収してくれという内容だが、写真がなかった。しかしこれでは消費者になかなかどの商品なのか伝わらなかった。翌年1月8日、写真入りの全面社告を掲載した。これもミスと言える。
 最終的には1月25日に契約社員が容疑者として逮捕された。

【回収決定が遅すぎた】 
 問題となるのは、1件目の苦情が来てから回収するまでに、非常に時間がかかっていることである。「商品の臭いがおかしい」という苦情は日常茶飯事。単品で1件だけの苦情だと、なかなか連続性があるとは捉えられない。今回の場合も、複数の商品、異なる製造日のもので苦情があったので、連続性を見つけるのは難しかったと思う。
 故意にマラチオンが混入されていたにもかかわらず、なぜ消費者の多くは気付かなかったのだろうか、とは思うだろうが、私自身もマラチオンを嗅いだことがない。マラチオンは揮発性の高い溶剤を使っているが揮発成分の臭いは商品開封後がすぐに飛んでしまう。消費者から返ってきた商品から検出するのは難しいのかもしれない。
 検出された数値を見ても、エチルベンゼン6 ppm、キシレン3 ppmといったように、検出された農薬の濃度と比べるとかなり蒸発していると思われる。マラチオン(マラソン乳剤)はもともと50%が溶剤。溶剤の方も1000 ppmほど入っているはず。なぜなら、2200 ppmものマラチオンが検出されたのだからだ。溶剤も非常に濃い濃度で出てくるはずだろう。
 だが、揮発性が強いため、消費者が開封した後に返ってくるまでに揮発してしまったのだろう。つまり検査時にはほとんど農薬が残っていなかったのだろう。
 溶剤のクレームは消費者が嗅いだ時点に来るが、消費者から返ってきた時には溶剤が揮発して消えてしまっているというのはよくある話だ。例えば、最近の包装紙材は、中身が漏れたり印刷を押さえたりするために複数の素材を貼り合わせているが、包装紙材の溶剤の臭いが残る場合がある。包装の内部に残っているのだが、消費者が開封してから商品が返ってくるまでの間にだいたい消えているので、それが不良だと気付くのは難しい。特に1件だけだと分からない。
 今回のケースはそれに加えて、工場でペンキを塗り直したという事情があって、当初はそこに結論を結び付けてしまっていた。「これで解決だ」と安心していた部分があるのだと思う。

【検出基準とARfDの周知度】
 29日の記者会見で発表したマラチオン濃度が2200 ppm(最大値が15000 ppm)だったが、マラチオンの残留基準は0.01 ppmであった。これは加工食品の場合の基準だ。最初に検出されたのがミックスピザで、小麦粉と乳がほとんどの商品。材料ごとの残留基準は小麦粉は1.2 ppm、乳は0.5 ppmなので、原材料由来とは考えにくい。だからなんとも言えないので、0.01 ppmを基準にしたのだろう。「加工食品だから0.01 ppm」と言わないで、「原材料の小麦に由来するかもしれない」と言えば、もう少し高い濃度を基準にできたかもしれない。つまり、「小麦が50%入っている」と言うと、0.6 ppmが基準だと言えたかもしれない。ただ、それに対して、ADIが0.3 mg/kg体重/日。その時はARfDというのが考えに入っていなかったと言える。
 マラチオンの半数致死量は1000~10000mg/kg体重。計算すると、20 gの商品に2200 ppm入っていると、1個のコロッケに44 mg入っていることになる。ADIでは体重20 kgの子供にとって6 mgなので、ADIの基準は超えている。LD50であれば、20000~200000 mg(20~200 g)が基準になるので、きわめて多量に摂取しないと半数致死量にならない。記者会見の発表では、LD50の基準の方を無理やり使ったのではないかと思われる。
 毎日新聞の小島氏の記事(「くらしナビ・ライフスタイル:冷凍食品への農薬混入事件 誤解与えた毒性の発表」(1月30日付)によれば、マルハニチロの担当者はARfDの考え方を知らなかったとしているが、多分、経験のある人しかARfDは使わない。中国の毒ギョーザ事件の時には、ARfDを使った方がいいという意見が一部にあったが、ARfDの考え方は品質保証の分野でのそれほど広く知られていたわけではない。

◆◆ (続きは次回に)

2014-02-27T15:03:35+00:00 2014.02.27|Categories: What's New|