Litera Japan メールマガジン第134号 『キャスターという仕事』国谷裕子著 読書メモ  (2019年5月8日配信)

Litera Japan メールマガジン第134号 『キャスターという仕事』国谷裕子著 読書メモ  (2019年5月8日配信)

本号では少し志向を変え、読書してよかった本をご紹介します。

今回は『キャスターという仕事』国谷裕子著 2007年 岩波新書 です。

 

国谷さんは23年間キャスターを務めた誰でもが知る名キャスターです。

先日、SDGsの集まりでお目にかかりましたが、仰ることは的確でかつ温かく、

今でも私の憧れの女性でした。

 

本が出版されてから2年が経ちますが、相変わらず同調を求める「空気」

が漂っております。

日本社会への警鐘である本著からの読書メモです。中でも、氏の問題提起の部分をまとめました。どうぞご一読ください。そして、ぜひ本著を手に取られてください。

 

 

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今日の一文○○

『キャスターという仕事』国谷裕子著 2007年 岩波新書 読書メモ

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国谷氏は23年間 NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務め、NHKでは看板のキャスターとなっていた。

 

番組を制作する中で国谷氏が感じた圧力や違和感にはいくつかあるが、顕著なもののひとつは「同調圧力」であった。

 

日本の中には多数意見と異なるものへの反発や、多数意見への同意、あるいは、同調を促す雰囲気のようなもの、

いわゆる「同調圧力」と呼ばれる空気のようなものがある。

以前、対談で作家の村上龍さんが、「日本は自信を失いかけているときに、より一体感を欲する。それは非常に危険だ」と話していたのを思い出す。ここ数年はその圧力が強まっているとさえ感じる。

 

 

日本社会に特有のインタビューの難しさ、インタビューに対する「風圧」とも言える同調圧力を度々経験した。

最初の「風圧」は人気の高い人物に対して切り込んだインタビューを行うと、視聴者の方々から想像以上の強い反発が寄せられる。

例は、1997年ペルーの日本大使館公館人質事件を解決し、多くの日本人を救出したフジモリ大統領へのインタビューだ。

(経済的な問題など)相手にとってネガティブな側面から迫っていくと、多かれ少なかれ批判や反発が寄せられる。そういうことは、その後も起きた。

 

波風を立てる、水を差す、そう言ったことを嫌う、あるいは避けようとする日本人の感性とも言えそうなものが、

インタビューの受け取られ方にも現れていた。

 

「感情の一体化」という「風圧」も存在する。例は長野県民から圧倒的な支持を得て改革を進めると宣言した長野県知事だった作家の田中康夫さんへのインタビュー後、(「決断のプロセスが見えにくいという声」「議会ではこれまでの合意形成の方法が無視されたという気持ち」など、田中氏への国谷氏からの投げかけに対し)、番組への抗議があった。

 

世の中の多くの人が支持している人に対して、寄りそう形ではなく批判の声を直接投げかけたり、重要な点を繰り返し問うと、このような反応がしばしば起こる。

 

まだまだ「聞くべきことはきちんと聴く、繰り返し聞く」ということには、様々な困難がともなうのだろうか、と国谷氏は考えている。

 

 

(キャスターを務めた)四半世紀の中での一番の変化は、経済が最優先になり、人がコストを減らす対象とされるようになったことだ。一人ひとりが社会の動きに翻弄されやすく、不安を早くから抱き、自らの存在を弱く小さな存在ととらえるようになってしまったのではないだろうか。一人ひとりの個性が大切と言いながら、組織の管理強化によって、社会全体に「不寛容な空気」が浸透していったのではないか。そう国谷氏は考えている。

 

2016年 NHK「クローズアップ現代」国谷氏の登板最終日、ゲストである作家の柳田邦夫さんが、「危機的な日本の中で生きる若者たちに八カ条」というメッセージを番組に寄せてくれた。

 

1.自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間を持つ。感情に流されずに論理的に考える力をつける。

 

2.政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底にある問題を読み解く力をつける

 

3.他社の心情や考えを理解するように努める。

 

4.多様な考え方があることを知る。

 

5.適切な表現を身につける。自分の考えを他社に正確に理解してもらう努力。

 

6.小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かにする最善の道であることを心得、実践する。

特にボランティア活動など、他者のためになることを実践する。社会の隠された底辺の現実が見えてくる。

 

7.現場、現物、現人間(経験者、関係者)こそ自分の思考力を活性化する再考の教科書であることを胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを心掛ける。

 

8.失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、自分の考えを大切にして地道に行動を続ける。

 

 

インターネットで情報を得る人々が増えているが、感情的に共感しやすいものだけに接する傾向がみられ、結果として異なる意見を幅広く知る機会が失われている。そして、異質なものに触れる機会が減ることで、全体を俯瞰したり物事の後ろに隠されている事実に気づきにくく、また社会の分断が進みやすくなっている。

 

経済格差などで社会が分断され、加えて財政難と低成長に直面するなか、一つの問題の解決が別の問題を生み出すなど、課題が互いに絡み合い、課題解決に向けた合意形成はますます難しくなっている。

 

そう言う状況だからこそ、考える材料や議論を促す、いわば「情報のプラットフォーム」を提供する報道番組はより一層必要だ。閉塞感が溢れる社会の中で合意形成を促し、議論の場を提供してきたことに<クローズアップ現代>の存在意義もあった。

 

時代に個人が翻弄される中で、一人ひとりが将来を考え、自分の生き方を俯瞰することが必要になっている。その必要に応えていくことが、テレビの報道番組に今求められている。(以上)

 

 

 

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2019-06-03T13:50:22+09:00 2019.06.03|Categories: メルマガ|